2025年6月13日
ピロリ菌とは
ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)はオーストラリアの病理医が胃炎の患者から見つけた菌です。体長は約3μmのらせん状の菌になります。複数の鞭毛(尻尾のようなもの)をもち、回転するように動きます。
従来は胃内は強力な胃酸があり細菌は生息できないと言われていましたが、ピロリ菌は胃粘液中に住んでおり様々な病気と関連していると考えられています。
どうやって感染するのか
はっきりとした感染経路はまだわかっていません。感染したことのない小児を追跡した研究で、ピロリ菌の主な感染時期は乳幼児期で、それ以後の感染は少ないことが報告されています。感染小児の両親も陽性であることが多いことや、両親と菌株や菌の遺伝子が一致することが多いことなどから、家庭内でうつっていると考えられています。
具体的には衛生環境が悪いことや、離乳食期の両親からの口移しなどが挙げられます。
日本では、小児期の生活環境、特に上下水道の整備などによってピロリ菌の感染率は下がってきています。
ピロリ菌が関連する病気
・H.pylori感染胃炎
感染することで胃粘膜が萎縮したり(萎縮性胃炎)、全体的に赤くなったり(びまん性発赤・点状発赤)、胃粘膜が腸粘膜に置き換わったり(腸上皮化生)します。胃癌の発生リスクがあり、ピロリ菌に現在も感染している場合は除菌治療が有効です。慢性的な萎縮性胃炎はほとんどの場合、症状がありません。
・胃潰瘍、十二指腸潰瘍
ピロリ菌感染、痛み止め(非ステロイド性抗炎症薬)の使用が主な原因で罹患します。若い方は十二指腸潰瘍が多く、年をとるにつれて胃潰瘍が多くなります。典型的な症状は胃潰瘍は食直後のみぞおち、上腹部の痛み。十二指腸潰瘍は空腹時や夜間の痛みがでます。
・胃MALTリンパ腫
ピロリ菌などの慢性炎症の関与が示唆されています。治療は除菌治療や放射線治療などを行います。
・胃過形成性ポリープ
ピロリ菌感染などによる胃粘膜の損傷、修復の過程で生じます。癌化率は低く1-3%程度と考えられています。ピロリ菌の除菌治療を行うことでポリープは小さく、なくなることもあります。サイズが大きいものや、出血を伴うものは内視鏡的切除を行うことがあります。
・免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)
血小板に対する自己抗体により血小板が破壊されて、血小板数が減少する病気です。皮下出血や点状出血がみられることがあります。ピロリ菌の除菌治療で軽快することが多く、関連が指摘されています。
診断
保険診療で以下の検査を行うには、事前に内視鏡検査(胃カメラ)が必要です。
当院では主に以下の3種類の検査(抗体測定法、尿素呼気試験、便中抗原測定法)を行っております。
・H.pylori抗体測定法
血液中や尿中の抗体を測定します。当院では血液による抗体測定法を主に行っています。除菌後では抗体価がゆっくり下がるため、除菌判定には適しません。また、陰性高値例では解釈に注意が必要です。
・尿素呼気試験
空腹時に試薬(ユービット錠)を飲み、吐いた息の二酸化炭素に含まれる13Cを測定します。ピロリ菌に感染していると、ピロリ菌がもつウレアーゼ活性によって試薬の尿素が分解され呼気中に13Cが増加します。抗菌薬や胃薬(プロトンポンプ阻害薬)を内服している場合、偽陰性となる可能性があります。
・便中抗原測定法
胃から消化管を経由して排泄されるH.pylori由来の抗原を測るものです。診断精度に優れており、除菌判定に主に使用されています。
・迅速ウレアーゼ試験
胃カメラで胃粘膜を採取し試薬にいれ、組織内にH.pyloriが存在するか確認します。H.pyloriがいる場合、菌が持っているウレアーゼにより試薬中の尿素が分解されアンモニアが生じます。生じたアンモニアにより試薬の色が変化することでわかります。
当院では胃カメラの際に前処置薬として胃の粘液を落とす薬を飲んでもらっているため、偽陽性となってしまう可能性があり行っていません。
・鏡検法
胃カメラで胃粘膜を採取し、顕微鏡でピロリ菌が存在するか直接確認する方法です。
治療
診断がついた方は原則、除菌治療を行います。
除菌治療は、胃薬と抗菌薬2種類(合計3剤)を7日間続けて内服します。
一回目の治療で約90%の方が除菌成功します。
10%程度の方は、薬が効きにくい菌のため失敗してしまいます。その場合は薬の内容を変えて二次治療を行います。残念ながらそれでも失敗することもあります。三次治療は保険がきかず自費となってしまいます。
抗菌薬はアレルギーをお持ちの方がいらっしゃると思います。他の抗菌薬を使用して治療を行いますのでお申し出ください。
除菌後の対応
一度除菌した後の再感染はほとんどないと言われています。
ピロリ除菌で胃癌のリスクは抑えることができますが、それでもピロリにかかったことがない(未感染)の人と比べると胃癌のリスクがあります。
そのため、除菌後は年に一回の胃カメラを行うことが推奨されています。仮に癌ができてしまっても、早期に発見でき、治療ができるため忘れないようお願い致します。